山の稜線を目で追ってみる。
    いま目にしている山には見えているこちら側と
    見えていないあちら側が存在する。
    そんな凄く当たり前の事を思い出す。

    つくることは、常にあちら側とこちら側がつきまとう。

    線を描くことは一方で経験をなぞること。
    他方で経験を裏切って未知を開くこと。

    紙の上で白く残された形はネガとなり、
    板でくり抜かれた形はポジとなる。

    テーブルソーの刃は
    線の内側を時計回りで、
    外側を半時計回りで前進する。

    切断面をヤスリで削り、
    その上に下地の絵の具を盛る。
    素材の色は消失し、色が表出する。

    運動する線の連続で出来た面。
    隣り合う色の差異が関係をつくる。

    厚みわずか12mmほどの板材は、
    かろうじて最小限の設置面で台上に自立する。

    台の高さに目線を合わせ空間を覗き込む。
    片目を閉じたときの視界のずれと、
    まばたき一つ分くらいの時間の差。
    見えている風景とそこから伺える向こう側の風景。
    私はしばらくそこに向き合ってみたいと思っている。